クレーム問題について(第3回)
ーブラックリストや無断録音についてー

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1 はじめに

今回は、クレーマー対策の最終号として、ブラックリストや無断録音について述べさせていただきます。

2 ブラックリストについて

業界や地域によっては、その界隈で有名な不当クレーマーがいるものです。そういったとき、企業の防衛手段として、①ブラックリストとして当該クレーマーの情報を所持したり、あるいは、②ブラックリスト情報を企業間で共有したりすることがあると思います。

これらの防衛手段は、個人情報保護法との関係で問題ないのでしょうか。

結論からいいますと、①②のいずれの場合でも問題ない、と解されています。以下、そのように解される理由をご説明します。

(ただし、当該クレーマーが、不当要求を繰り返して業務妨害になっているレベルの悪質クレーマーであることを前提とした解釈ですので、その点はご留意ください。)

(1)①ブラックリストの所持について

不当クレーマーが、「俺の個人情報を所持しているか言え。所持しているなら直ちに破棄して利用を停止しろ。」などと言ってきた場合、応じなければならないのでしょうか。

この点、情報を所持していることを不当クレーマーに明らかにしなければならないとすると、更なる不当要求を助長ないし誘発するおそれがあります。

したがって、不当クレーマーに関する個人データは、個人情報保護法施行令4条2号の「当該個人データ(注:不当クレーマーの個人データ)の存否が明らかになることにより、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの」に当たると解されます。

同号に当たると、個人情報保護法の保護対象である「保有個人データ」に該当しないことになるので(同法2条7項)、不当クレーマーの個人データは、「保有個人データ」に当たらず、個人情報保護法の保護対象ではないことになります。

したがって、不当クレーマーから、企業に対して、情報の開示、訂正、利用停止請求があっても、企業はそれに応じる必要はないことになります。

(2)②ブラックリスト情報の共有について

個人情報保護法23条は、本人(クレーマー)に無断で第三者(他企業)に個人データを提供することを原則禁止しているのですが、その例外として、同条1項2号で「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」に当たる場合はあらかじめ本人(クレーマー)の同意を得る必要はない、と規定しています。

つまり、①「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合」という要件と②「本人の同意を得ることが困難であるとき」という要件の2つを充たせば、クレーマーの同意がなくても、第三者に個人データを提供できることになります。

①については、業務妨害レベルの不当クレーマーの情報を企業間で共有することは、企業活動を保護するために必要といえますので、①の要件を充足します(なお、法律上の「人」とは、法人すなわち企業も含まれます。)。

②についても、そのような悪質な不当クレーマーに対して、「企業防衛のため、あなたのブラック情報を他企業と共有します。」といっても同意が得られるはずはないので、要件を充足するといえます。

したがって、ブラックリストを企業間で共有しても、個人情報保護法に違反しないといえます。

3 無断録音について

クレーマーとのやりとりを無断で録音しても問題ないのか、という論点があります。

無断録音は、①個人情報保護法に抵触しないか、②プライバシー権との関係で違法な不法行為として損害賠償責任を負わないか、③裁判になったとき無断録音を証拠とすることができるか、という3点が問題になります。

結論からいいますと、基本的にいずれも問題ないと解されています。以下、それぞれについて簡単にご説明します。

なお、無断録音が法的に問題ないとはいえ、クレーム対策としては、録音していることを事前に敢えて通知することも一考に値します。例えば、電話の自動音声などで、「品質向上のためお客様とのやりとりは録音させていただきます。」などと流して、事前に利用目的を公表しつつ、録音していることを通知してから、やりとりを始める方法です。現に、このような対応をしている企業も多いかと思います。

録音していることを敢えて伝えることで、クレーマーに対する一定の牽制になることが期待できます。

(1)個人情報保護法との関係

個人情報保護法では、特定の個人を識別できる内容が含まれていれば「個人情報」に該当しますので、そのような「個人情報」が含まれる内容を録音した場合は、原則として、「あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。」(法18条1項)とされています。

したがって、企業がHPや電話の自動音声などであらかじめ利用目的を公表していない場合は、無断録音後、速やかに利用目的を当該クレーマーに通知するか、又は公表しなければならないとも思われます。

しかし、上記の取扱いはあくまで原則で、同条4項各号で定める適用除外事由に該当すれば、例外的に、通知も公表も不要となります。

この点、不当要求をしてくるクレーマーとのやりとりを無断録音した場合、その旨を当該クレーマーに告げることで更なる不当要求を招来するおそれがありますので、同項2号の「利用目的を本人に通知し、又は公表することにより当該個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合」に当たるといえます。

したがって、不当要求してくるクレーマーとのやりとりを無断録音することは、個人情報保護法上問題がないといえます。

では、悪質な不当クレーマーとまではいえないクレーマーの場合はどうでしょうか。この場合、上記2号には当たるといえないとも思われます。

しかし、クレーム対応のやりとりを録音する目的は、企業がクレーム内容を正確に把握するためということは明らかですので、同4号の「取得状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」に該当するといえます。

したがって、悪質な不当クレーマーが相手であれ、一般的なクレーマーが相手であれ、いずれにせよ無断録音は個人情報保護法との関係で問題ないといえます。

(2)プライバシー権との関係

無断録音によってプライバシーを侵害したとして、企業が損害賠償責任を負うことはあるのでしょうか。

たしかに、録音内容にもよりますが、無断で録音すれば、プライバシー権の制約が生じるケースはあります。

しかし、権利は無限に保護されるものではありませんので、制約があるからといって直ちに違法となるわけではありません。録音する企業側の利益と、録音されることによって被るクレーマーの不利益とを比較考量して、どちらに天秤が傾くかによって、違法か否か決まります。

そして、一般的に、企業側の録音する利益は、クレームを正確に把握してクレームに適切に対処するためという正当な利益である一方、クレーム対応中にプライバシー性の強い情報はそれほど含まれないのが通常ですので、クレーマーの被る不利益は小さいといえます。

したがって、基本的に、無断録音が違法となることはないと解されます。

なお、クレーマーから、「勝手に録音していないか?」と尋ねられた際は、「録音していません。」と嘘を言うと、無断録音が違法になってしまうおそれがありますし、嘘がバレたときに弱みをつけこまれ、クレームをごり押しされるおそれもありますので、「後日のトラブルを避けるため、録音させていただいております。」などと、録音していることをきちんと伝える必要があります。

その場合に、クレーマーが、「録音するな!」と言ってきた場合は、録音の理由を伝えて理解を得るように努めるべきですが、どうしても相手が応じない場合は、「録音させていただけないなら、ご対応することはできません。」と対応を打ち切るべきかと思います。

(3)裁判上の証拠にできるかについて

無断録音した内容を、将来、裁判などで証拠にすることは問題ないのでしょうか。

この点、著しく不相当な手段を用いて収集したというような特段の事情がない限り、証拠として有効と認める裁判例が多数ありますので、やりとりを無断で録音した程度であれば問題ないというのが通説です。

4 さいごに

顧客のクレームによって惹起される職場内の疲弊、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)は、近年増加傾向にあり、今後もそのような傾向は維持されるといわれています。

カスハラが増加している要因については、色々な分析がなされていますが、仮に要因が特定できたとしても、カスハラを根絶することは不可能でしょうから、企業としては、適切に対応していかざるを得ません。

また、既に述べましたとおり、クレームは、企業にとって必ずしも負の側面ばかりではありません。クレームを真摯に受け止めることで、それまで企業自身が気付いていなかった企業内の問題点を認識し、これを改善する契機となり得えるからです。

クレーム対応は顧客を相手にしている以上、杓子定規にいかない難しさがありますが、これまでの3号が少しでもお役に立てば幸甚です。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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