セクハラ問題について

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1 はじめに

今回は、セクハラ問題について述べさせていただきます。

(1)都道府県労働局に寄せられたセクハラの相談件数は、25年度は9,230件、26年度は11,289件、27年度は9,580件とのことですが、セクハラのような性的被害は申告がしづらいことを考えると、実際にはもっと多くのセクハラがあると思われます。

こういった背景を受けて、2019年5月29日、参議院本会議で「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」が可決され、同法が成立しました(施行時期は、早ければ、大企業が2020年4月、中小企業が2022年4月と報じられています。)。この法律は、我が国で初めてパワハラについて規定し、その防止のための措置を講じる義務を企業に課したものですが、セクハラについても新たな規制を課しております。

(2)現在、セクハラは極めてポピュラーな概念になりましたので、誰が見てもセクハラと感じるような、あからさまなセクハラ(おしりを触ったり、キスを迫ったり)をいまだにする人は論外ですが、セクハラ問題の難しいところは、男女の恋の駆け引きなどと勘違いしてしまい、セクハラと思わずにセクハラをしてしまっているパターンが往々にしてあるところです。

そこで、本稿では、企業が気を付けるべき点、また、一個人として気を付けるべき点について、主に述べさせていただきます。

なお、セクハラは、同性間でも、また、女性から男性に対しても生じ得るものですが、一般的には、男性が女性に対して行った言動がセクハラ問題に発展するケースが多いので、本稿は基本的にそういったセクハラを念頭に書いております。

2 セクハラとは

セクハラとは、端的にいえば、相手の意に反する性的言動です。このようなセクハラの定義を聞くと、セクハラに当たってしまう言動をかなり広く感じ、過度に萎縮してしまうかもしれません。

しかし、セクハラとひとくくりにいっても、道義的・社会的に不適切なレベルのセクハラと法的責任が発生するレベルのセクハラという風に、問われる責任によって異なるレベルのセクハラがあります。

すなわち、職場でセクハラをした場合、そのセクハラの程度によって、刑事責任レベル、民事上の賠償責任レベル、懲戒処分レベル、厳重注意レベル、口頭注意レベル、という風に区分ができ、それぞれの責任毎にセクハラの認定レベルは異なるのです。

法的責任レベルや懲戒レベルのセクハラ認定においては、被害者が主観的に嫌だと思っただけでは足りず、社会通念に従って客観的に判断されます。

つまり、相手の意に反する性的言動がなされた場合、それが全て違法となって法的責任を負うことになるのではなく、行為の態様、職務上の地位、年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害者の対応といった様々な事情を総合的に考慮して、社会通念上不相当といえるとき、初めて違法と評価されます。

セクハラの撲滅が大事だといっても、被害者が不快に思ったら直ちに法的責任を負う、というのではさすがにたまったものではありませんので、上記の理は常識的に理解しやすいと思います。

もっとも、法的責任が発生しないとはいえ、道義的・社会的に不適切なレベルのセクハラもハラスメントであることに違いはなく、不適切な言動です。そのような言動をする人は周囲から軽蔑の目で見られ、社会的責任を問われ得ることを肝に銘じる必要があります。

3 セクハラ問題に対する企業としての注意点

(1)はじめに

ア 男女雇用機会均等法11条において、事業主の義務として、セクハラ防止措置を講じることが定められています。これを受けた厚労省の指針(いわゆる「セクハラ指針」)では、①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるセクハラに係る事後の迅速かつ適切な対応、④①~③までの措置と併せて講ずべき措置、が規定されています。

イ 職場で発生したセクハラは、場合によっては、加害従業員だけの責任にとどまらず、企業も使用者責任(民法715条)を問われたり、職場環境配慮義務を怠ったものとして債務不履行責任(民法415条)を問われたりするおそれがあります。

したがって、企業は、可能な限りハラスメントの発生を防止するべく、事前対策を講じるとともに、万が一発生してしまった場合は、迅速かつ適切に対応する必要があります。

(2)セクハラ防止の事前対策について

セクハラ防止の事前対策としては、

①ハラスメント禁止規程を作るとともに、これに違反した場合に懲戒処分ができるように就業規則の懲戒事由に規定すること、

②ハラスメントが禁止されていることを、従業員に周知・啓発すること、

③相談体制を整備すること(ハラスメント被害が発生した場合、被害を最小に抑え、迅速に対応するためには、早期の段階で情報をキャッチする必要があります。また、女性男性両方の相談担当者がいることが望ましいです。)

などが挙げられます。

特に重要な事前対策は、③の相談体制の整備だと考えます。といいますのも、後述するとおり、セクハラは、構造的に、被害者が加害者に対して面と向かって明確に拒絶することが難しいことが多く、企業内に相談窓口がないと、被害者は我慢し続けた末に、わざわざ外部の労働局などに相談する負担を強いられてしまうからです。

以前、内部通報制度について記載した事務所便り2月号でも述べましたとおり、不祥事が発生した場合、企業内で適切に対処することが基本的に望ましいと考えております。そして、企業内の自浄作用を高めるには、不祥事を早期に把握することが必須であり、そのためには相談体制の整備が不可欠です。

また、社員全員にどういったことをセクハラと思うかアンケートし、その結果を公表するだけでも、何がセクハラと考えられているのか社内で共有でき、社内のセクハラ防止に繋がるのではないかと思います。

(3)事後の迅速かつ適切な対応について

セクハラ被害の申告があった場合、放置することは論外です。迅速な事実確認が必須であり、そうしないと、企業は職場環境配慮義務に違反したとして、損害賠償責任(民法415条)を負うおそれもあります。

セクハラに係る事実確認の際には、その性質上、いくつか留意すべき点がありますので、以下ご紹介いたします。

ア セクハラは、当事者以外に人がいない場所で行われることが多いため、客観的な証拠や第三者の証言が得られないことが多々あります。その上、セクハラに係る事実関係について、当事者の言い分が大きく異なることは往々にしてあります。

そのような場合、加害者と被害者のどちらの言い分の方が信用性が高いと言えるかを判断する必要があります。この判断をするに当たっては、供述内容の合理性、一貫性、重要な部分についての矛盾の有無、前後の事実関係との整合性等を考慮する必要があります。

信用性を判断するに当たっては、一方当事者に肩入れすることなく、公平な視点で判断することが肝要です。

イ 事実聴取の際は、5W1Hを明確にしながら、基本的に時系列に沿って聴取していきます。

そして、聴取の順番としては、まず被害者や第三者から聴取を行い、それと併行して客観的証拠も集め、可能な限り事実関係を固めてから、加害者に対する聴取を行うべきです。その理由は、以前の事務所便りでも書きましたが、言い逃れをされないように外堀を埋めておく必要があるからです。

被害者に対する聴取の際は、2次被害が発生しないように、きめ細かい配慮が必要です。例えば、「なんではっきり拒絶しなかったのか」と責めるようなことを言うのは言語道断です。そのような質問がセクハラ被害者を一層苦しめてしまうことを肝に銘じる必要があります。

一般的に、セクハラは、上司部下という上下関係があるなかで発生することが多いです。そのような上下関係があるにもかかわらず、「やめてください!」と明確に拒絶することは、今後の社内の関係もある以上、極めて困難です。もっといえば、明確に拒否できる程度の相手からのセクハラであれば、そもそもたいした問題にまで発展しないのが通常です。

ウ 事実認定に際して注意を要するのが、セクハラは、当事者に上下関係のあることが多いため、被害者が、対等当事者間ならば通常取らない行動をしたり、あるいは通常取るであろう行動をしなかったりなど、セクハラ被害者として一見不合理にみえる行動を取るケースがあることを踏まえる必要があることです。

判例(L館事件)においても、「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられる」とされています。

つまり、セクハラの事実認定に当たっては、杓子定規に、「拒まなかったから同意してたんだろう。」とか、「行為の後も一緒に食事に行っているのだから、同意してたんだろう。」と認定するのは短絡にすぎ、セクハラ被害者のきめ細かい心理分析を踏まえて事実認定する必要があるのです。

エ 事情聴取などを実施し事実確認ができた結果、悪質性が軽微なセクハラであったとしても、何もせずに静観してしまうことは不適切です。

軽微なセクハラがその後エスカレートして、深刻な結果を招くことが往々にしてありますので、軽微なセクハラだとしても、会社としては、放置するのではなく、セクハラの程度に即した何らかの措置をとるべきです。

例えば、イントラネット上で、個人が特定されないように個人名を隠した上で、所属部門と罪状・処分内容を一定期間掲示することで、ハラスメントは許さないという啓発活動と、社員に対する注意喚起が期待できます。

4 セクハラ問題に対する個人としての注意点

(1)セクハラの怖いところは、セクハラと思わずにした言動が、実はセクハラということがある点です。

立場が上の相手からセクハラをされた場合、被害者としては、今後のことも考えるとあからさまにイヤな顔をすることもできないため、明確に拒否できないどころか、むしろ、今後の関係性を考えて、できるだけ険悪にならないように、マイルドに対応するケースが多いです。ネットで調べたところ、そういった対応を推奨しているサイトが散見されたほどです。

しかし、そういったマイルドな対応は、男性の勘違いを助長させ、セクハラ被害を深刻化させることがよくありますので、推奨すべき方法なのか疑問があります。

とはいえ、被害者に、「セクハラされたら明確に拒絶しなさい。」という負担を強いることは酷ですので、企業が相談体制をきちんと整備するのが筋だと思います。

なお、社外の人から二人きりでの食事を誘われた場合などには、「社内規程で取引先との1対1の食事は禁止されているんです。」などと、実際にそのような社内規程がないとしても、社内規程を楯にとって断る方法が便宜かと思います。

(2)男性が「大人の恋の駆け引き」だと思い込んでいたやりとりが、相手の女性からするとセクハラだったという事態は、決して珍しくありません。

「あの人はセクハラやりかねないよね。」と言われるような人ではなく、「え!あの人がセクハラ!?」と驚かれるパターンがこれです。この、いわゆる“恋愛勘違い型セクハラ”は誰もが陥りがちですので、特に注意が必要です。

相手の表面的な反応を見て問題ないと思ったとしても、相手が内心でどのように考えているかは分かりません。

したがって、セクハラに当たり得るような行為をそもそも行わない事が肝要です。

加害者が何気ない言動と思っていても、それが繰り返し・長期間続くことによって、被害者にとって耐え難い苦痛に変わっていくことがあります。

気付かないうちに加害者になってしまわないよう、加害者が何気ない言動と勘違いしている行為の例として、厚生労働省が企業向けのアンケート作成用に公開している事例は次のとおりですので、ご参考にしてください。

◯容姿やプロポーションについてあれこれ言う

◯性的な冗談を言う

◯肩、手、髪に触る

◯職場の宴会でお酌やカラオケのデュエットを強要する

◯女性にのみお茶くみを強要する

◯「おじさん」「おばさん」「○○クン」「○○ちゃん」と呼ぶ

◯「女性は職場の花でよい」「男のくせに/女のくせに」と言う

◯「結婚はまだか」「子供はまだか」と尋ねる

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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