テレワーク制度導入時の注意点について

1 はじめに
新型コロナウィルス感染症騒動に端を発し、最近テレワークが話題に上がることが多くなりました。
テレワークとは、時間や場所にとらわれない働き方を意味します。「tele」とはギリシャ語で「遠く」という意味で、「television」や「telephone」の「tele」と語源が同じだそうです。この「tele」に「働く」という意味の「work」をくっつけて、職場から遠い場所で働くという「telework」という単語が作られました。
総務省の調査によると、テレワークを導入している企業は19.1%、導入の予定がある企業は7.2%とのことですので、約5社に1社がテレワークを既に導入していることになります。
厚生労働省が「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」を策定したものの、テレワークのための新たな立法まではなされていないので、テレワークを行う場合であっても、基本的には、通常の労働者と同様に、労働基準法、労働安全衛生法等が適用されるほか、労災保険その他の社会保険も適用されます。
そこで、会社の労務管理に関係する雇用型テレワークを念頭に、テレワーク導入に伴う法的問題点等について解説させていただきます(非雇用型テレワークは、いわゆる業務委託などの外注先に当たりますので、労務管理の対象とはなりません。)。
2 テレワークに関する留意点等
(1)労働条件通知
使用者は、労働契約を締結するに際し、労働者に対して、賃金や労働時間のほかに、就業の場所に関する労働条件を明示し通知しなければならないとされています(労基法15条1項、労基則5条1項1の3号)。そのため、労働契約締結時にテレワークを行うことが予定されている場合には、労働契約を締結するに際し、就業の場所として自宅やサテライトオフィスといったテレワークを行う場所を明示する必要があります。
(2)労働安全衛生等
テレワークを行う社員についても、会社は労働安全衛生法(安衛法)を遵守し、過重労働対策やメンタルヘルス対策を含む、労働者の健康確保のための措置を行わなければなりません。具体的には、健康診断の実施(安衛法66条)、長時間労働者に対する医師の面接指導(同法66条の8等)、ストレスチェック(同法66条の10)等を講じる必要があります。テレワークの場合、社員の心身の状況の変化等に気づきにくくなることが想定されます。会社としては、安衛法等に基づく責務を負っている以上、テレワークを行っている社員の健康や精神状態について、適時適切に把握するよう努めることが重要です。
(3)労働災害
労働災害の補償についても、通常の労働者と同様に適用されますので、テレワークにおける被災について使用者はその補償責任を負い、労働者は労災保険を受けることができます。
もちろん、私的行為によって傷害を負った場合など、テレワークと傷害等との間に業務起因性がない場合には、業務上の災害とは認められませんので、補償の対象外ですが、テレワークは、会社の目の届かない場所で勤務を行うため、業務起因性の判断が難しい状況が生じることが想定されます。
(4)割増賃金
労働時間の管理は、使用者にあります。したがって、テレワークを導入するとしても、会社は、通常の社員に対するのと同様に、テレワークを行う社員に対して、労働時間を適正に把握したうえで、時間外労働、法定休日労働、深夜労働を行った場合には、法令に従った割増賃金の支払いをしなければなりません。
この点、テレワーク導入についての最大の懸案事項とされたテレワーク社員の労働時間の管理に対する信頼性について、社員の判断による中抜け等がなされたり、会社に事前連絡をせずに時間外労働等を行うことが想定されるということがありました。会社にとっては、想定外の時間外労働、深夜労働、及び休日労働が発生するおそれがあるからであります。
そこで、会社としては、許可制を取り入れることが必須と考えます。例えば、時間外労働等を行う場合には、事前に会社の許可を得なければならないものとし、かつ、事後には時間外労働等の時間を報告するようにし、会社の許可がなかった場合や、事後報告がなかった場合には、使用者の関与なく行われた労働であって、労働時間に該当しないものとして扱うといった運用にすることが考えられます。
ただし、ガイドライン上、このような残業の許可制を導入しても、下記の要件を充たさない限り、使用者の関与なく行われた労働とはいえないとされている点に注意が必要です。
① 時間外等に労働することについて、使用者から強制されたり、義務づけられたりした事実がないこと。
② 労働者の業務量が過大である場合や、期限の設定が不適切である等、時間外等に労働せざるをえないような使用者からの黙示の指揮命令があったと解しうる事情がないこと。
③ 時間外等に労働者からメールが送信されていたり、時間外等に労働しなければ生み出し得ないような成果物が提出されている等、時間外等に労働を行ったことが客観的に推測できるような事実がないこと。
(5)テレワークに関する費用
テレワークを実施する場合 、業務に利用するノートパソコン、スマートフォン、携帯電話といったタブレット端末の購入費用、ネット回線などの通信費、サテライトオフィスへ移動する際の交通費や利用料金など、色々な費用が発生します。
こうした費用について、労使のどちらかが負担しなければならないという決まりはないので、就業規則等に会社が負担する費目やその限度額など事前に定めておくとよいと思います。
また、会社の所有物ではなく、社員が個人所有しているパソコン、スマートフォンその他作業用品でテレワークさせる場合は、就業規則にその旨規定するとともに、労働契約締結の際にその旨を明示する必要があるので注意が必要です。
以上