不祥事対応その2

1 はじめに
今回は、自社製品によって消費者に健康被害が生じたケースを題材として、不祥事発生の初期対応などについてご説明いたします。
2 不祥事発生の初期対応
(1)自社製品によって消費者に健康被害が発生したことを企業が把握する端緒としては、被害を受けた消費者からの相談、消費者を診療した医師からの通報、医師から届出を受けた保健所からの連絡等が考えられます。
自社製品によって健康被害が発生したとの情報を把握した場合、企業としては、直ちに事実調査を行い、事実関係や被害状況を迅速かつ正確に把握しなければなりません。事実関係等の把握に失敗すると、事態の過小評価や過大評価につながり、事案に応じた適切な対応ができないからです。
なお、事実調査をする際は、担当者を決めて情報集約するべきです。情報集約しないと、情報の見落としや誤情報の流出につながり、結果的に消費者の不信を招く原因になるからです。
(2)調査においては、健康被害の原因が本当に自社製品にあるのかを徹底的に検証する必要があります。
調査の結果、自社製品によって健康被害が発生したことが判明した場合(あるいはその可能性がある場合)、被害拡大を阻止するため、自社製品による健康被害が発生していること(あるいはその可能性があること)を消費者に迅速に情報提供する必要があります。
この点、コンプライアンス遵守が求められる昨今においては、自社製品によって健康被害が生じたのか否か科学的に解明できない、黙っていれば不祥事発覚の可能性が低い、法的に開示義務がない、といった理由で消費者に情報提供しないという対応は通用しないと思われます。
といいますのも、最近、コンプライアンスの概念が広がっており、コンプライアンスとは、単に「法令」遵守ではなく、「法令等」遵守を意味するとされているからです。この「等」には、法令以外の、社会規範、社内規範、社会道徳、ステークホルダーの利益といったものが含まれます。
つまり、企業がコンプライアンスを遵守したといえるためには、単に法令を遵守するにとどまらず、種々の社会的要請にも応える必要があります。
この点、食品を提供する企業が社会から要請されているものの一つは、安全な食品を提供することですので、健康被害が現に生じている以上(あるいはその可能性が否定できない以上)、被害拡大の阻止を最優先課題と捉え、迅速かつ正確に消費者に情報提供することが社会的要請に応えることになります。
そもそも、SNS時代において、黙っていれば不祥事が発覚しないだろうと安直に考えることは極めて危険です。発覚したときに企業が被るレピュテーションリスクは計り知れません。
もちろん、不祥事を公表すると不祥事に対する批判は避けられませんが、自ら公表すれば隠ぺいとの誹りを受けることはありませんし、また、きちんと事実調査した上で自ら公表することで、憶測報道や誤報を避けることができます。さらに、対応策や再発防止策もきちんと示すことで、不祥事を克服しようとする前向きな姿勢もアピールできます。
こういった誠実でオープンな企業姿勢を積極的に示すことで、社会からの批判を低減させ、また、自浄作用のある企業として信頼を勝ち取り、報道も加熱せず早期に収束することが期待できます。
(3)健康被害の原因が企業にあるか不明な場合、因果関係を立証できない以上、法的には企業は責任を負いませんが、とはいえ、「当社に法的責任はないので知りません。」といった消費者を突き放すような対応をすると、社会の強い反発を招くことがあるので注意が必要です。
企業が社会的責任を果たすためには、消費者を突き放すことなく、消費者の立場に立ってみて、消費者ならばどういう説明をしてほしいかを想定した上できちんと説明するなど、誠意のある対応をするべきです。
具体的には、「どんな問題が発生したのか」、「被害は拡大するのか、収束したのか」、「問題に対してどのような方針で臨んだのか」、「選択した方針は機能していたか」、「原因は何だったのか」、「いかなる再発防止策を講じるのか」、といったことを説明する必要があると考えます。
なお、消費者に情報提供する際に調査未了の部分がある場合には、不正確な情報提供によって消費者が混乱することを避けるために、判明した事実と調査中の事実とをきちんと分けて伝えることが重要です。
3 不祥事の原因究明
不祥事の原因究明の際は、個人的要因にとどまらず、組織的要因まで解明する必要があります。
つまり、不祥事の原因を個人に矮小化してはならないということです。企業における不祥事は組織的な原因が背景にあることが多いので、それを解明した上で、再発防止策を講じる必要があります。
そのためにも、原因究明に当たっては、個人の責任追及を主眼とするのではなく、再発防止に主眼を置く必要があります。個人的責任を追及するだけでは再発防止に繋がりません。人ではなく出来事に着目することで、不祥事の原因を究明し、再発防止に繋げることができます。
また、再発防止策を検討する前提として、不祥事の原因を明らかにする必要がありますが、多くの場合、不祥事の原因と思われるものは複数あり、複数の要因が有機的に影響し合って不祥事が発生しています。このように不祥事の原因が複数ある場合には、自分たちでコントロールできる原因とコントロールできない原因とをきちんと区別して、再発防止策を考える必要があります。
自分たちでコントロールできない原因は、経営の制約条件として所与のものと認識するしかありませんので(例えば、昨今の働き方改革によって法令上規律されたルールなど)、自分たちでコントロールできる原因を究明し、それに対する解決策を検討する必要があります。
なお、組織のルールが社会のルールとズレてきているにもかかわらず、組織の中に長くいるうちに組織のルールを絶対と思い込んでしまい、問題を認識できなくなってしまうことがあります。「そういうものだから」と疑問を持たなくなる状態です。
このような問題盲の状態を脱するためには、問題に名前を付けること(ラベリング)が有効な対策です。ラベリングが問題解決に役立った典型例が、セクハラです。現在では到底許容されない性的言動が、かつては公然と行われていましたが、セクハラというラベリングが生まれたことで、そのような性的言動がセクハラとして問題視されるようになり、社会が改善されていきました。
4 怪文書や外部リークへの対応
(1)不祥事が発生すると、社内に怪文書が出回ることもありますが、怪文書は基本的に無視して相手にしないのが正しい対応です。
なぜなら、怪文書を出す者の多くは、放火常習犯と同様に、騒ぎにすることが目的だからです。
ただし、怪文書の内容が真実で衝撃が大きい場合は、黙殺すると憶測や疑心暗鬼を招き組織が混乱するおそれがありますので、出回った範囲で適宜説明し、憶測や疑心暗鬼を抑制した方がよいと思われます。
(2)また、不祥事対応で社内がバタバタしていると、重要な社内文書が外部にリークされることがあります。
こうした外部リークの対策としては、社内文書の一部を変えておく方法があります。
例えば、Aに配付する文書では「言う」と書いてあるところを、Bに配付する文書では「いう」に修正するというような目立たない細工をするということです。
こうしておくと、外部に流失した文書の出所が推測しやすくなります。この細工は目立たないことが肝要ですので、読点の位置をずらしたりといった些細な違いを1箇所だけしておくことがおすすめです。