内部通報制度の整備・活用について

1 はじめに
今回は、内部通報制度について述べさせていただきます。
会社法に、内部統制システムの整備について規定されております(会社法362条4項6号、会社法施行規則100条)が、内部通報制度は、内部統制システムから漏れたリスク情報を、問題が大きくなる前に、通常の業務上の報告ルートとは別のルートを作ることによって吸い上げるシステムといえます。
したがって、内部通報制度の設置運用は、内部統制システムの不可欠の要素であり、コンプライアンスの実現ために非常に重要なものです。
2 内部通報制度を設ける意義
(1)問題が小さいうちに対処が可能となる
ハインリッヒの法則と呼ばれるものがあります。すなわち、1件の事故の背後には29件の軽微な事故が存在し、それらの背後には300件の異常が存在するという法則です。
この法則が示すとおり、大きな問題は小さなリスクの積み重ねによって発生することが経験則上ほとんどですので、リスクの一つ一つがそれ程重大なものでないとしても、それらの小さなリスクに早期に対処することが、企業経営にとって極めて重要であることは多言を要しないかと思います。
では、どのようにリスク管理をすればよいのでしょうか。
私見では、リスク管理は、リスクゼロを目指すのではなく、リスクの最小化を目指すべきと考えております。
人間は必ず間違いをおこすものですので、リスク管理に当たって、リスクが0になることを目指すのは不適切と考えます。なぜなら、不祥事や事故をゼロにすることを企業理念とすることは、いわば不可能を目標に掲げることになりますが、不祥事ゼロを理念とする企業においては、不祥事や事故の発生は絶対にあってはならないことである以上、発生してしまった場合に隠蔽する企業風土が生まれるおそれがあるからです。
むしろ、不祥事や事故は必ず発生するとの前提に立った上で、それらが発生したときに早期かつ適切に対処する体制を確立することが、現実に即した適切なリスク管理ではないでしょうか。
そして、リスクが小さなうちに対処するためには、内部通報制度を設けてこれを機能させることで、現場の声を吸い上げやすくすることが有用ではないかと考えております。
(2)外部告発を抑制できる
内部通報制度が機能していないと、不祥事や事故が発生した場合、マスコミ等の外部に告発がなされることになります。
しかし、外部へ告発されると、断片的な情報や未検証の情報をもとに、一方的な報道等を受け、企業として深刻なダメージを受けるおそれがあります。
したがって、不祥事が生じた場合、一次的には企業内部で適切に処理できることが基本的に望ましいと考えております。そして、そのためには、外部告発に代替するものとして、内部通報制度を機能させ、自浄作用を高める必要があります。
3 内部通報制度の運用における注意点
(1)せっかく内部通報制度を設けても、誰も利用せず実際には機能していないというのでは、意味がありません。そこで、制度の存在を社内で周知するとともに、従業員が安心して通報できるようにする必要があります。
従業員が安心して通報できるためには、①内部通報した事実が外部に漏れないこと②内部通報したことをもって通報者が不利益に扱われないこと、が絶対条件です。
したがって、社内規程において、通報を受理対応する部署を、できれば複数定めるとともに、通報者に対する不利益処分の禁止を定めておくことが必要です。
(2)通報を受けた後の対応の流れ
通報を受理した後、まずは通報内容を精査し、調査を実施するか否かを判断します。このとき、通報内容だけでは情報が不足する場合は、通報者から更なる情報の提供を求める必要があります。
調査を実施すると判断した場合は、通報事実が漏えいしないように、十分注意する必要があります。特に、被通報者や関係者に漏れてしまうと、証拠隠滅等をされるおそれもあるので、要注意です。
また、ヒアリング調査を実施する場合、どういう順番でヒアリングするかが重要です。
この点、まずは通報者からヒアリングを実施し、事実関係と証拠をある程度把握した後に、被通報者からヒアリングを実施するのが原則です。
事実関係や証拠をある程度把握していない段階で、いきなり被通報者からヒアリングをすると、言い逃れされた場合に突っ込むことができませんし、証拠隠滅等の工作活動をされるおそれもあるので、被通報者に対するヒアリングは、外堀が埋まった後にすべきです。
なお、通報者は、通報したことによって有形無形の不利益を受けないか、強い不安を感じていることが通常です。そのため、被通報者(加害者)や上司、同僚に対するヒアリングを実施する場合は、事前に実施する旨を通報者に知らせ、意向を確認しておく方が無難かと思います。
4 さいごに
昨今は、企業が単に法令を遵守し、コンプライアンスを実現していくだけでは足りず、企業に要請されている社会的責任(CSR=corporate social responsibility)を果たさなければ生き残れない時代に突入したといわれています。
CSRとは、コンプライアンスを超えて、社会や利害関係者の期待に応え貢献していくことをいうそうですが、CSRを果たす前段階として、まずはコンプライアンスの実現を果たす必要があります。そういった観点から、内部通報制度の充実を図っていただければ、幸いです。
以上