副業について

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今回は、働き方改革の1つである、副業の解禁・促進について述べさせていただきます。

なお、副業の解禁といっても、今までも、副業の全面禁止が認められていたわけではありません。就業時間外は、本来、従業員の自由な時間だからです。

裁判例では、就業規則によって副業を許可制とすることは認める一方、労働者の私生活上の自由に対する配慮から、懲戒処分の対象となる副業は、会社の職場秩序を乱ものに限定されると解釈するのが大勢です。

1 はじめに 

(1)従来、85%以上の企業が、原則として副業を認めていませんでした(「中小企業庁委託事業 平成26年度兼業・副業に係る取組実態調査事業報告書」)。

その理由は、副業のデメリットとして、①情報漏えいや競業のおそれ、②長時間労働の助長、③労働時間把握の困難性、④人材流出のおそれ、⑤自社での業務怠慢などといった点が指摘されていたからです。

しかし、平成29年3月28日付「働き方改革実行計画」では、柔軟な働き方がしやすい環境の整備が掲げられ、その中で副業の促進が謳われました。

これを受けて厚生労働省は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成し、また、モデル就業規則についても、副業を原則として認める規定(67条)に変更しました。

このガイドラインには、副業によって労使に生じるメリットとして、以下のような記載があります。

【労働者のメリット】

①離職せずとも別の仕事に就くことが可能となり、スキルや経験を得ることで、労働者が主体的にキャリアを形成することができる。

②本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追求することができる。

③所得が増加する。

④本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる。

【労働者の留意点】

①就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管理も一定程度必要である。

②職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務を意識することが必要である。

③1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には、雇用保険等の適用がない場合があることに留意が必要である。

【企業のメリット】

①労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。

②労働者の自律性・自主性を促すことができる。

③優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。

④労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大に つながる。

【企業の留意点】

①必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義 務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要である。

(2)しかし、厚労省が挙げるようなメリットが本当に存在するのか、正直なところ少々疑問を抱いております。

例えば、労働者のメリットとして、副業によって新たなスキルやキャリア形成に繋がると謳われていますが、副業する全ての労働者がそういった有意義な副業ができるとは限りません。

働き方改革によって残業が抑制された結果収入が下がった、という声が最近よく聞こえますが、減収分を補うためだけに副業するケースが増える可能性も大いにあります。

(3)企業にとっても、副業の解禁をするに際しては種々の課題があり、副業の解禁は慎重に検討する必要があります。

副業の形態は、雇用契約を結ぶか否かによって、①自営・フリーランス型副業と②ダブルワーク型副業の2つに分類できます。そして、企業にとって負担が大きいのは、②のダブルワーク型の副業です。

といいますのも、①自営・フリーランス型の副業の場合、労働者としてではなく、自営業者として副業しているので、副業している時間に対しては労働基準法をはじめとする労働法の適用はありませんが、他方、②ダブルワーク型の副業の場合、労働者として副業しているため、本業側の会社にも副業側の会社にも、労務管理として様々な負担が発生するからです。

2 副業を導入する場合の企業の課題

(1)企業にとって、副業を解禁する場合に最も難しい問題は、労働時間の管理です。

労働基準法38条1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」としているところ、「事業場(・)を異にする場合」には、「事業主(・)を異にする場合」も含まれるとされています。

したがって、副業の労働時間と本業の労働時間は通算されますので、法定時間外労働が生じるケースが多く発生すると思われます。

法定時間外労働に対しては割増賃金を支払う義務がありますが、割増賃金の支払い義務を負う企業が、本業先の企業になるか副業先の企業になるかは、労働者の労働状況によって異なります。

この点、厚労省作成の「『副業・兼業の促進に関するガイドライン』Q&A」に、法定時間外労働の割増賃金支払い義務に関する実例が挙げられており、参考になります。例えば、次のような実例が挙げられております。

【実例】

労働者甲は、A社との間で、所定労働日を月から金、所定労働時間を8時間、週5勤務とする雇用契約を締結し、契約どおりに勤務していた。

その後、甲は、B社との間で、所定労働日を土曜日、所定労働時間を5時間とする雇用契約を締結し、契約どおりに勤務した。

上記の例では、B社が5時間の法定時間外労働をさせたことになります。

したがって、B社は36協定の締結・届出が必要ですし、割増賃金を支払う必要があります。

(2)厚労省の上記ガイドラインは参考になるものの、副業先が複数あるなどの複雑な事例についての対応は書かれていません。

また、上記ガイドラインは、A社B社が、双方ともに、労働者甲が何時間働いているかを正確に把握していることを前提としていますが、実際問題として、企業が他の企業における実際の労働時間を正確に把握することは容易ではありません。

例えば、労働者からの申告で労働時間を把握するとしても、その申告内容をそのまま信用してよいのか、という問題もあります。

3 副業解禁に当たり企業が取り得る対策

上記のとおり、副業を解禁した場合、企業には種々の課題が生じます。

そこで、副業を解禁する場合は、就業規則において、①他社で雇用される形態の副業・兼業は認めず、個人事業主として行う場合に限定する規定や、②情報漏えいや利益相反を防ぐため、競業他社での副業・兼業は禁止する規定を設けるなど、工夫が必要と思われます。

また、他社で雇用される形態の副業・兼業を認める場合は、労働時間を把握し、健康管理を図るために、①副業先の会社名、業務内容、勤務時間等を記載した許可申請書を提出させたり、②情報漏えいや利益相反をしない旨の誓約書を提出させるなどのルールも必要かと思います。

なお、情報漏えいの危険については、自社の従業員が、他社において、自社の情報を漏えいするケースばかりに目が向きがちですが、自社の従業員が、自社において、副業先で得た他社の情報を漏えいするケースもあります。

後者のケースでも、企業は、使用者責任に基づき他社から損害賠償請求されるおそれがありますので、注意が必要です。

以上