採用時の注意点等について

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1 はじめに

あるコンサルタントは、採用の重要性について、「採用はYシャツの第一ボタンである。Yシャツの第一ボタンをきちんととめられたとしても、他のボタンがきちんととめられる保証はない。しかし、第一ボタンがずれていれば、どんなに頑張っても他のボタンをきちんととめることはできない。」と喩えていました。

入社する人によって組織や会社の風土は作られていきますので、採用面接は、会社の今後を左右し得る極めて重要な位置づけといえます。ましてや、日本の場合、解雇が法的に有効となるためのハードルが極めて厳しいため、採用段階で適否を見極めることがなおのこと重要といえます。

とはいえ、採用段階で企業の求める人材かどうかを完全に見極めることは困難を極めます。また、採用段階で求職者の問題点を発見できたとしても、後任をできるだけ早く補充したい、人手不足のため贅沢をいっていられず採用せざるを得ない、などといった事情も実際問題としてあるかと思います。

そこで、採用段階で最低限度気を付けるべき点について述べさせていただきます。

2 採用面接に関して

(1)プライバシーに関する質問

法の建前上、採用面接の際に、業務の適正や能力に関係しないにもかかわらず、個人のプライバシーに関する事項を質問することは、不適切とされています。不適切な質問の典型例としては、本籍・出生地に関する事項(戸籍や本籍が記載された住民票を提出させることはこれに該当します。)や家族に関する事項(家族構成、社会的地位、学歴、仕事の有無・職種・勤務先、収入、資産)といったものが挙げられます。

これらの事項は、基本的に業務の適正や能力とは関係ありませんし、個人のプライバシーに関わることなので、詮索することは不適切とされています(ただし、業務の適性や能力と関係がある場合は、質問しても差し支えありません。例えば、深夜勤務や転勤が多い業務の場合は、家族の介護等に支障が生じる可能性があるため、業務に支障をきたすことを避けるために家族の健康状態等を質問することは許されるといえます。)。

以上が法の建前ですが、実際問題として、個人のプライバシーに関する事項についてもある程度踏み込んで把握しないと、その求職者の人となりを捉えることは困難です。したがって、面接中のアイスブレイクや面接が終了し求職者がほっと一息ついているときなどに、さり気なくさらっと質問して上手く聞き出すことが、1つのテクニックとなります。

なお、回答を拒絶されたとしても、その際のやりとりから何か察することができるかもしれませんので、質問すること自体が有益だと考えます。ただし、そういった質問を執拗に行ってしまうと、不法行為(民法709条)に当たってしまう可能性がありますので、質問の仕方には気を付けなければなりません。

(2)既往症に関する質問

会社は、社員に対して安全配慮義務を負っていますので、過去に精神疾患等があるのであれば、再発の危険を考え、心理的な負荷が大きい業務を避けたり、残業時間を短縮するなどの配慮が必要となります。会社としては、安全配慮義務を適切に履行するためにも、既往歴を知っておく必要があります。会社にとって、社員の健康状態の悪化は、知らなかったで済む問題ではなく、把握できるよう努力しなければならないのです。

求職者が自ら、うつ病などの精神疾患の既往歴がある旨話してきたときは、更に質問等ができることは当然であるとしても、そのような話もなく、履歴書等に書いてもいないのに、いきなり、既往歴を尋ねることは、なかなか困難でしょう。

しかし、前記の目的からして、必要であれば、質問等は許されますし、しなければならないということになります。精神疾患だけでなく、労災で問題になりやすい脳、心臓、血圧関連の異常を指摘されたことがないかどうかも聞くべきといえます。

これらの事項について質問しても回答をもらえなかった(既往歴等はありませんとの答えがあれば、面接記録に明記しておきます。)のであれば、うつ病その他の疾患が悪化したとしても、会社は配慮しようにもできなかった(予測可能性と回避可能性がなかった。)のですから、会社の責任が重く評価されることはありません。その意味で、質問すること自体が重要です。ただし、既往歴は非常にセンシティブな情報ですので、何故質問するのか、ということをきちんと求職者に説明して、理解を求める必要があることはもちろんです。

(3)控え室での様子

控え室での態度を密かにチェックすることも有益といわれています。面接の場では取り繕ろうでしょうが、控え室だとつい素の様子を現してしまうことがあるからです。例えば、面接の開始時間が遅れている場合に、ふてくされた態度をしたり、不満げな態度を示している人は、客先で待たされたときもそのような態度をするおそれがあるかもしれません。

3 履歴書に関して

履歴書は、採用段階での最重要書類です。そのような最重要書類にどのように記入しているか、ということをチェックすべきです。「いまだに手書きの履歴書を求めるなんて時代錯誤だ。」という言説もありますが、履歴書は手書きのものを求めるべきと考えます。なぜなら、手書きですと、機会入力では出てこない個性が現れ、そこからなにがしかのニュアンスが得られるからです。

この点、字を書く機会が激減した現代においては、字が上手かどうかという点は、人間性を判断するに当たりあまり関係がないように思います。むしろ、あまりに字が上手く、かつ、職歴に長期の空白期間がある場合、服役経験があった可能性も考慮すべきといわれています。着目すべきは、きちんと丁寧に書いているかそれとも雑に書いているか、字体に変わった特徴がないか、といった点だと思います。

また、記入事項にきちんと全て記入しているかそれとも省いているかといったことも着目すべきです。例えば、住所の記載で、都道府県を省略して市や区から記載する等です。細かい点かもしれませんが、履歴書という最重要書類で、自分が真面目な気持ちで入社しようとしている会社に最初に提出する履歴書等がきちんと作成されていないというのであれば、そのように手を抜くということは、会社に入ってからも、手を抜くおそれがあるかもしれません。

他には、学歴や職歴に空白期間がある場合や、転職を繰り返している場合は、要注意です。どういった理由があるのか、面接の際に聞き出す必要があります。この聞き方については、一定の知識経験を要するところです。採用担当者の力量のみせどころとなります。

4 前の職場への問い合わせに関して

(1)労働基準法第22条第4項は、使用者が、労働者の就職を妨害するために、その国籍、信条、社会的身分、労働組合運動に関して情報を提供したり、退職証明書等に秘密の記号を記入したりすること(いわゆるブラックリストの作成)を禁じています。

しかし、逆にいえば、これに当たらない調査まで禁じるものではありません。ですから、前の職場に、求職者の勤務状況などを問い合わせること自体が禁じられているわけではありません。また、前の職場も、事前の申し合わせに基づかず個別の照会について回答することは禁じられていません(昭22・9・13基発17)。ただし、前の職場としては、個人情報をみだりに第三者に開示してはならないので、問い合わせに対して答えるか否かは前の職場の判断に委ねられます。

(2)前の職場に問い合わせる場合は、個人情報ですので、事前に求職者の許可を得る必要がありますが、その際のやり取りを通じて色々な情報が得られることが期待できます。

第1に、前の職場が回答に応じてくれた場合、求職者の申告内容と異なる何らかの情報(在職期間が異なる等)が得られるかもしれません。

第2に、前の職場の回答が「守秘義務があるから答えられない。」というときは、求職者と揉めたことを暗に伝えてくれている可能性があります。というのも、企業が離職者との間で守秘義務を負っているのは、大抵、何らかのもめ事があった結果だからです。

第3に、求職者が前の職場への問い合わせを拒絶した場合、何かやましいことがあると推定できます。同意するか否かは求職者の自由ですので、拒絶したことを理由に不採用とすることはできませんが、採用の判断を一層慎重に行うべき1つの兆候というべきです。

以上