退職勧奨の注意点その2

1 はじめに
日経新聞によると,10月27日,ロイヤルホールディングスが正社員200人程度の希望退職を募集すると発表したそうです。新型コロナウイルスの影響で業績が悪化するなか、人件費の削減を通じて収益力の改善を目指すとのことです。
そこで、本稿では,希望退職募集及び退職勧奨を題材にさせていただきます。
2 希望退職の募集について
人件費の削減が目的である以上,退職勧奨の前に,まず希望退職者の募集を実施し,希望退職者数が予定した数に満たない場合に,やむをえず退職勧奨を行うという流れがほとんどかと思います。
希望退職を募った場合、会社が想定していた人数より多くの退職希望者が出てしまうケースや,残ると思っていた貴重な人材が退職希望に募集してしまうケースがあります。こういった事態に対処するため、募集要項には、「先着順で募集人員に達した時点で受け付けを打ち切ること」を明記するとともに、「経営上の必要性がある場合には、この制度による退職を許可しない場合があること」も明記しておくべきです。
また、希望退職者が予定人員に満たなければ引き続き退職勧奨を行う方針の場合は、希望退職募集の時点であらかじめ,予定人員に満たなければ退職勧奨を実施する旨も告知しておいた方がよいです。事前に告知することによって、従業員からすれば、応募者が少ない場合に自身が退職勧奨の対象者になる可能性があるかどうか判断する機会を得られます。その判断の結果,自身が退職勧奨を受けるおそれがあると考えた場合、退職勧奨を受けるよりも希望退職に応募して自らのプライドを守ろうとする人が出てくる可能性があるからです。
3 退職勧奨について
(1)希望退職者数が予定人員に満たない場合、退職勧奨を実施することになりますが、退職勧奨は、希望退職の募集と同様に、労働者の退職の申込みの意思表示を誘引する事実行為ですので、使用者が自由に行うことができます。
ただし、全くの自由に退職勧奨できるわけではなく、退職勧奨の手段・方法が社会的相当性を逸脱するような場合には、不法行為として損害賠償の対象となり、慰謝料を請求されるおそれがあります。
例えば、退職勧奨の面談を必要以上に行ったり、面談時間が長時間に及んだり、圧迫的に退職を迫ったり、退職を執拗に迫ったりすると、その他の事情との関係によりますが、違法な退職の強要と評価され、不法行為として損害賠償の対象になるおそれがあります。
そこで、退職勧奨する場合は、違法な退職の強要に当たらないようにするために、以下のように行うべきと考えます。
- 勧奨する上司は1人又は2人とし、従業員の自由な意思を尊重できるような雰囲気で行う。
- 1回当たりの面談時間は20~30分程度とし、就業時間中に行う。
- 場所は会社施設内とする。自宅へ押しかけたり、電話するなどの行為は避ける。
- 面談の実施回数は、2~3回程度とする。
このような退職勧奨であれば、違法な退職強要には該当せず、正当な業務と評価されるといえます。
なお、最近は、面談の際にスマホをはじめとする録音機を携帯していることが多々ありますので、会社としては、録音されているという前提でやりとりをするよう注意する必要もあります。
(2)実際に退職勧奨をする現場は、かなりシビアなやりとりや雰囲気になることも多いと思います。
そういったシビアな退職勧奨の場合に、可及的に紛争予防するためには、退職勧奨を受けている対象者の心情に配慮しつつ、道義上の礼儀を尽くすことだと思います。
具体的には、人件費を削減する必要があるほど会社の置かれている現状が厳しいことを説明し、できるだけ納得の上で退職してもらうべきです。場合によっては、相手にも言い分があるでしょうから、そういった言い分を真摯に聞く態度を示すことも必要だと思います。問答無用というスタンスでは、わだかまりが残ることが必至です。
(3)退職勧奨をする際には、対象者にメリットをきちんと説明することも、説得の上で必要です。
例えば、退職勧奨に応じた場合は自己都合退職ではなく会社都合退職とすることや、退職金も上積されることをきちんと説明することになります。
この点、退職勧奨に応じた場合、労働者が自ら退職の意思表示をしたという意味では、自己都合退職と評価することもできます。
しかし、退職の動機づけをしたのは使用者ですので、会社都合退職とする方が筋が通っていますし、失業給付金の関係で対象者に有利ですので、会社都合にすべきと考えます。
なお、退職勧奨に応じた場合と異なり、希望退職の募集に応じて退職の意思表示をした場合は、割増退職金という優遇措置があるので、自己都合退職とするのが一般的かと思います。
4 退職勧奨が奏功しなかった場合
退職勧奨を行ったにもかかわらず、退職を拒否されてしまった場合は、難しい問題が残ります。
というのも、退職勧奨の対象になったということは、会社からすれば今後の経営戦略の構想に対象者を入れてなかったわけですし、対象者本人もモチベーションが低下していると思われ、そのまま組織にとどめておくことは好ましくないことがほとんどだからです。
このような場合の対策として、グループ企業や関連会社に出向させるという方法が考えられます。退職勧奨を受けて拒否した後ですので、本人もそのまま留まるのは居心地が悪く、同意を得ることができるかもしれません。
とはいえ、出向措置がとれるのは、出向先となるグループ企業や関連会社がある企業だけですので、出向先がない場合には,指名解雇に進まざるを得ないことになります。
5 さいごに
繰り返しになりますが、人件費の削減対策として希望退職の募集や退職勧奨を行う場合は、その手続に十分注意し、対象者に対して誠意と敬意の念をもって行うことが、レピュテーションリスクの防止や紛争予防において極めて重要です。
以上